先日、奈良を訪れた際に蘇我馬子の墓と伝えられる石舞台古墳に立ち寄った。以前ここに来たのは、東京藝大の助手をしていた際に参加した古美術研究旅行の時だったので、もう20年ほど前になる。
駐車場を降りると、そこは綺麗に整備された公園となっていて、のどかな風景を背景にして芝生の広場が広がっていた。その横の小道を歩いていくと直ぐに石舞台古墳が姿を現した。総重量2300トンといわれる巨石を30個ほど積み上げて造られた石室の規模は大きい。元々は墳丘に覆われていた土が年月と共に無くなり、そのため石が剥き出しとなっている。その姿に装飾的な要素は全くなく、積み上げて作られた石の組み合わせは、それ自体に重要な意味を帯びていた。石の隙間から中を覗くと石室の内部が見えたが、そこは地中深くまで掘られている為、外見から見た印象と実際のスケールが大きく異なっていた。しかし、それは古墳の地中にあるという性質上、想像出来ることなので、それ程大きな驚きにはつながらなかった。
石室の中に入ると、そこは外界から感じていたものとは異なる世界が広がっていた。77トンといわれる天井石の存在は、かなりの圧力を持って迫りつつも、圧迫感よりは石の素材の持つ神秘性が優っていた。
石の隙間から入る光は外界の広さを象徴するかのように存在感を放っている。見る角度を変えると石の隙間の形状は代わり、そこから入る光の形や強さも変化していく。その境界は複雑な奥行きと形で構成されているため、差し込む光はシルエットというよりはグラデーションで構成されている。そこには境界線というよりは空間としての"交わりの間"が存在し、巨大な石に囲われた石室内を閉塞感の少ない空間へと変貌させていた。
石舞台古墳は建造物が風化して躯体が露出したものだが、素材や光、空間、時間などが交差した独特の身体感覚が得られる。それは彫刻のもつ性質と深い関係があるように感じられた。
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