top of page

室生寺/十一面観音菩薩立像と五重塔


久しぶりに室生寺を訪れた。

私はここにある十一面観音と五重塔が好きで、何度も訪れているが、初めて来たのは大学1年生の時であった。当時写真に興味を持ち始めた頃で、亡くなった祖父が残してくれた古い一眼レフのカメラを手にしていたのを覚えている。実家が京都ということもあり、帰省を利用して京都奈良の寺院をよく訪ねたが、なかでも室生寺の険しい山の傾斜に建っていながらも、どこか優しさを纏った佇まいに惹かれた。尼寺であったのも影響しているのかもしれないが、その丁寧な自然との関わり合いに共感した。





この五重塔は平安初期に建てられたもので、法隆寺に次いで古く、国内最小の16メートルの高さである。裏手の少し小高い位置から水平に見ると、屋根の大きさは変わらないが、建物本体の太さは上に行くほど細くなっているのが分かる。また、屋根の勾配もあまりない。これらの構成には気品があり、一般的な五重塔のもつ崇高さというよりは、美しい印象が勝るため、見る人を優しく迎えてくれるような気がした。


今は修復されているが、1998年の台風で大きな損傷を受けた。台風の直後に訪れた際には、バス通りとは異なる細い山道を徒歩で登ったが、道中に何本も巨木が倒れて道を塞いでいる有様に、その台風の強さを感じた。このような厳しい自然環境でも現存しているのは、その控えめなサイズにあるのかもしれない。





この寺には、大小様々な建物があるが、そのすべてが好きだ。石垣ひとつ見ても趣のある佇まいをしている。





前回訪れたのは6年ほど前であるが、3年前に文化財の保護を目的とした収蔵室(寳物殿)が出来て、今までお堂(金堂)にあった十一面観音は移動し、近くから見れる位置にライティングして設置してあった。形を良く観察できるので、私の様な彫刻家にとっては勉強になり、像の保護のためにもこれが最適であるが、仏像はやはりお堂の中で見るのが1番魅力的だと感じた。


この十一面観音は平安初期の作で、榧の一木造りで作られている。私は平安初期彫刻のもつ様式から解放された個性的で人間味の強い造形が好きだ。この仏像もどっしりとした図太い体幹と柔らかなフォルムが絡み合う造形が絶妙である。その上に顔や手、表面の装飾等が繊細に表現されているが、その彫り込まれた表情は優しさと同時に厳しさもあり、情緒性に流され過ぎない強さがある。少し前傾に傾きながらも背を伸ばした立姿は綺麗である。私は、いつか日本人ならではの美しい顔(表情)を作ってみたいという願望があるが、この仏像にはその鍵が隠されているように感じる。


 
室生寺 十一面観音菩薩立像
「出典:女人高野 室生寺|御仏と寳物 寳物殿 http://www.murouji.or.jp/treasure/houmotsuden/ 」
 






女人高野 室生寺

〒633-0421 宇陀市室生78





コメント


bottom of page