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伊賀のアトリエ②/制作に適した空間


伊賀にアトリエを購入してからは、時間のある時に少しづつ改装を始めた。手間は掛かるが、取り敢えずはDIYで行うことにした。それは、制作に適した空間とは何かを、実際に作業をしながら探りたかったからである。時間を掛けて理想の環境にアトリエを見つけたので、改装もじっくり進めようと思った。


元々、豪華なアトリエに興味はなく、これまでは気兼ねなく作業ができれば多くを望まなかった。そして、今回も不必要に手を加えるつもりはない。その為、私の拙い技術で改装を進めても問題ないと思った。

美術を始めた頃、アルベルト・ジャコメッティのアトリエ写真を見て、質素な環境でも真の芸術が生まれることに感銘を受けた。現在も、作家と作品ができるだけシンプルに対峙できる空間がアトリエの理想だと考えている。

このアトリエで先ず改善したいと感じたのは天井高であった。彫刻を制作するには、もう少し高さが欲しかった。天井裏を覗いてみると奥行のある間隙と赤松で出来た立派な梁があり、50年前の大工の息遣いを感じた。天井板を取り除くと広がりのある空間が現れると感じ、悩んだ末に天井板を叩き壊した。静かな空間にとてつもない音が響き渡り、とんでもないことをした気分になったが、制作に快適な高い天井と、チェーンブロックを設置できる梁を手に入れた。


壁は制作に支障のない位置にあったので耐震性を考慮して全て残すことにした。しかし、木製の濃茶色となっていて、採光の行き渡る反射効果を考えると明るい色が良かった。そして、白色にアイボリーが少し混ざった色の漆喰を塗った。その​温かみのある素材は制作に落ち着きをもたらしてくれると感じている。


床は絨毯や畳の箇所が多い為、塑造を行うには手を加える必要があった。実用性を考えるとエンビシートを貼るのが良いのだが、制作​時の居心地の良さを考慮して3センチ厚の無垢板を貼った。昔、朝倉文夫のアトリエを見た際に、木製の床に塑造台のキャスター痕がたくさん付いていたが、そこに趣を感じたのを思い出した。


扉は大きな修復の必要はなかった。昔訪れた大正時代の建築である信州の旧制松本高等学校の扉を意識して、装飾を加えたり取手を真鍮製のものに取り替えたりして楽しんだ。色は作品の背景にあっても違和感のないグレーに着色した。

この様な作業を気の向いた時に行っている。壁と床の8割程度は出来たが、倉庫や棚、水回り、トイレなどはこれからである。そして、室内の改装に目処がついたら、周辺の環境に配慮して外壁に焼杉を貼りたいと考えている。まだ完成にはしばらく掛かりそうだがDIYを続けたいと思う。


改装中のアトリエでデッサンを描いたり、作品の構想を練ったりしている。物事を考えたい時に、この静かで嗜好品のない空間は最適である。ここで過ごす時間は私の制作にとって大切な存在となっている。














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