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伊賀のアトリエ①/理想の環境


田舎にアトリエを欲しいと考え始めたのはコロナ禍が始まって少し経った頃からだろうか。人里離れた静かな環境で制作したいという夢は昔からあったが、なかなか実現させるには至らなかった。それは、私の制作がそれほど広い作業場を必要としない為、津市内の住宅地にある自宅アトリエと勤務大学の研究室があれば事足りていたのも影響している。

 

コロナ禍になり、都心へのアクセスに制限が生まれるにしたがって、田舎を訪れる機会が増えていった。その際に、スマートフォンやパソコンなどの通信機器から離れて自然環境の中で過ごしていると、自分自身とより深く向き合える気がした。それは情報に溢れた現代社会において、しばらく忘れていた感覚でもあった。もし、このような環境で制作することができたら、どんな風に彫刻と向き合えるのだろうかと考えた。そして、色々と悩んだ末に人里離れた場所にアトリエを設けることを決めた。元々、学生の頃から制作場所が二箇所以上あることが多く、状況や気分により場所を変えていたので、アトリエを増やすのにためらいはなかった。

 

実際にアトリエを探し始めると、三重県には広い海もあれば険しい山もあるため、田舎の選択肢は多種に渡った。すぐに必要なものでもないので、時間をかけて探すことにしたが、それは私が制作場に求めるものと改めて向き合う時間にもなった。

様々な地域を見ていくうちに、私が求める環境がはっきりしてきた。それは静かな田園地帯であり、険しい山の谷間というよりは光の届く明るい場所が理想だった。

室内の大きさは程々の広さがあればよく、その代わり自然光が綺麗に入り、天井にはある程度の高さが欲しかった。建物のデザインは、現代的なものよりは古民家のような雰囲気が合っていると感じた。

 

2022年のある日、伊賀市と滋賀県との県境を車で走っていると、トンネルを抜けた先に、時代に取り残されたかような小さな集落が現れた。静かな田園が広がっており、遠くに見える丘には桜の木が群生していた。まるで時間が止まったかのような景色は、正に私が思い描いていた理想の環境であった。しかも、そこは私が粘土を購入する信楽に近かった。

 

この場所でアトリエを構えたいと思い詳しく調べてみると、作業場として丁度良い20坪程度の広さの平屋が見つかった。築50年ほどの古屋であったが、周りに民家は殆どなく田園が広がっていた。室内は古びていたが、窓がたくさんあり綺麗な光が部屋の奥まで差し込んでいた。裏庭には小振りではあるが2本の桜の木が生えていて、春になると花を添えてくれそうだった。

 

色々と念入りに確認するにつれて、この古屋こそが私の求めていた場所だと思えてきた。そして、購入を決め、ついに静かな環境にアトリエを持つという夢が実現した。今後、ここで作品について考えることが、私の彫刻にどのような影響をもたらすのか楽しみにしている。






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