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彫刻/光


大学では学生を指導する立場にあるが、それが故に気付かされることも多い。自分の作品では客観的になれないが、学生の作品に対しては自分の感情を入れずに見るのが仕事なので、彫刻との向き合い方が制作時とは異なる。


私は作品展示をする際のライティングは、斜め上方向からのトップライトを用いることが多い。それは、陰影のグラデーションをきれいに作れるので、造形した形を最大限に演出できるからだ。

しかし、学生が制作中の彫刻を見ていると、きれいに光が照らされていなくても魅力を失わない作品があることに気が付く。時間や天候、季節によって移り変わる光の中で変化していく作品を見ていると、改めて彫刻の奥深さを感じる。


彫刻は光がないと見えない。それが故に光の種類によって表情が変化する。もっというと、光だけではなく、周りから聞こえてくる音や温度、湿度などの影響も受ける。それは、雨の日に長崎で見た26殉教者記念像(船越保武 1962年作)でも感じたことだ。これまでは、そのような環境の変化に対応する彫刻を作るには経験によって得られる造形力が必要だと考えていたが、最近は少し違うように思える。なぜかというと、例えば雨によってできる水溜りのことなど、全ての不確定要素を経験値や造形論で対応することは無理だと感じるからだ。


年齢が経つと共に人生の経験値が増えるので、心を揺り動かされる場面が減っていく。それは、生活に平穏をもたらすが、感性を養うにはマイナスなことかもしれない。そのような変化を受け入れつつ、いま何ができるのかを考えていきたい。










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